北鎌尾根-バリエーション

 山岳会へ入る前からの夢だった北鎌尾根バリエーションルート

日本の有名な登山家、加藤文太郎、松濤明らが遭難死した事でも有名であるが、槍ヶ岳山頂が終了点という事もあって、ゴールした時の感動は計り知れないものがある。

計画に先立ち

古くからの登路は湯俣からのものと言われている。すなわち、信濃川水系の高瀬渓谷を遡上し、湯俣から水俣川を遡り、千天出合へと進み、北鎌尾根に取り付くというものであるが、現在では水俣乗越から天上沢もしくは大天井岳から貧乏沢を下降し、北鎌沢を登るというのが一般的ルートとなっている。

水俣乗越から天上沢を下る場合は北鎌沢出合付近でテント泊、大天井岳から貧乏沢を下降する場合は山小屋を使用して一日で北鎌尾根を抜けるという計画となる。

テント泊を選択すると北鎌の途中で一泊する計画も成り立つが、どうしても荷物が重くなってしまう。このあたりは個人やパーティーの技量にも左右されるところであるが、それほど体力に恵まれているわけでもない私の選択としては荷物を軽くして一日で抜ける貧乏沢を下るルートが好都合である。

シルバーウィーク

北鎌尾根を経験者無しで初めて登るとなるとコースタイムが読めない。ルートファインディングにもたつくと日が暮れて尾根の途中にてビバークを強いられることも考えられる。従って計画は3日間で立てても予備日がどうしても必要となる。また、ルートファインディングは先を見通して行う必要があり、ガスが掛かるような気象条件ではリスクが高くなる。天候の崩れがちな午後も見通しの効く気象条件が望まれ、天候も見ながらの日程調整をするならば更なる予備日が望まれる。そんな中今年は6年ぶりのシルバーウィークとなりこんなチャンスは二度とない。実際に次のシルバーウィークは11年後とか、、、お盆休みを利用するという事も考えられはするが、8月の高山では午後になると雷雨に遭遇する可能性が高く、北鎌で雷に襲われたら逃げ場がない。午後の早い時間に山小屋へ到達する事が出来れば良いが、北鎌ではそんな見込みは成り立たない。

貧乏沢(320

大天井ヒュッテに泊まって、北鎌沢を早朝に出発するためには貧乏沢は暗闇の中を降りる事になるので、前日に大天井ヒュッテ到着後貧乏沢への入り口の確認を兼ねて貧乏沢の様子を確認する。角張った石がごろごろしているが明瞭な踏み跡が確認できる。中には不安定な石もあり暗闇の中は慎重に下降する必要がある。

当日は午前2時半に起床、トイレを済ませて3時に出発、大天井ヒュッテからは十数名がこの日貧乏沢から北鎌を目指したと思われるが、我々が出発する時点で確認できたのは我々の他に一組の男女ペアのみであった。貧乏沢下降中では他に遭遇するパーティーは居なかった。

出発から20分ほどで貧乏沢入り口に到着したが、ここで早速トラブル発生、メンバーの一人がスタート直前にヘッドライトを落下させその後ヘッドライトが突然消えるなど調子が悪い、バッテリーを出し入れしてみるが状況はあまり変わらない。調子の悪いながらもなんとか貧乏沢終了まで持ちこたえたので事なきを得たが、貧乏沢でヘッドライトが点かないとなると致命的である。反省点としては共同装備で一個ヘッドライトの予備を一個用意すべきであったかと思う。

朝の冷え込みも想定されヒュッテを出る際はこの時期の登山服の上にフリースとカッパを着込んだが、この朝は冷え込みも殆どなく、貧乏沢入り口では体も暖まりカッパもフリースもザックにしまって上半身は夏山登山と変わらない服装で貧乏沢の下降に入った。心配された霜も降りておらず石は乾いていたので比較的に安心感はあったが、なんせ暗闇で灯りはヘッドライトのみ、常に周囲を見回しながら慎重に下降する。踏み跡はガレ場に出たり灌木帯に入ったりしており、暗闇の中では良く注意していないと危険な場所に足を踏み入れる事も考えられる。倒木の上では足元をすくわれ尻もち、各メンバーもそれぞれ何度か尻もちをついたり沢に足を取られたりした様である。幸いにして大きな怪我もなく無事予定通り2時間で貧乏沢を抜ける事が出来たが、間違いなくこの北鎌ルートの中の核心の一つではあった。

北鎌沢(545

朝食は北鎌沢を少し上がった二股で水を汲みながらと考えていたので、天井沢出合では一服して直ぐに天井沢沿いに北鎌沢へ向かう。北鎌沢出合では23のテントは残っていたものの大半のパーティーは既に出発しており、北鎌沢を見上げると上部に蟻の行列をなして登山者が登っているのが確認できる。

朝食は昨夜大天井ヒュッテで頼んでおいたお弁当、貧乏沢を下ってきた後だけにいつもは少々苦手な梅干しが美味しく感じ、ゆっくり味わって完食する。

数日前に雨が降っているので北鎌沢の上部にも水はありそうではあるが、万が一に備えてここでたっぷり水を汲んでいく。2L+ビバークに備えた500ml合計2.5L、ザックが急激に重くなる。我々が二股で朝食を摂っている間にも何組ものパーティーが通過して行った。北鎌沢では休憩のタイミングの違いでいくつかのパーティーと抜きつ抜かれつしながら上部を目指す。北鎌沢では常に右へ右へとルートを摂るが、最後の分岐だけは真ん中のルートを摂るとされているが、何処が最後の分岐なのかは初挑戦の人には良く分からない場合もある。北鎌沢の上部では若い女性と年配の男性の2名のパーティーが我々の前を進んでいた。一見親子にも見える年齢差であったが、聞こえてくる会話の内容からするとベテランの年配男性が若い女性を指導している様な感じである。先行パーティーは明瞭な踏み跡を辿って行ったので、我々も後を追ったが、どうも様子がおかしい、分岐ではないかと思われる地点へいったん戻ってみて踏み跡は良く確認できない岩場を少し超えてみるとその先に明瞭な踏み跡を発見しそちらを登る。右隣りには先ほどの男女の先行パーティーが見えたので、「こちらにもルートがるみたいですよ」と声を掛けると「そちらが正しいルートですね」と返って来たので認識されていると判断してそのまま先に進むが、先行パーティーはそのまま登り詰めた様であった。

北鎌のコル(810)〜独標下(1000

北鎌のコルへは我々が先に到着し休憩していると、男女のパーティーは56分ほど遅れて右の藪の中から追いついてきた。二股では朝食の後用を足すメンバーも居るかと時間に余裕を見ていたので、北鎌のコル到着は計画した時間より50分弱先行しており少し安心してここでたっぷり休憩する。

ここから独標下までは稜線沿いに行く踏み跡がしっかりしており迷う様な所は殆どない。危険な個所には残置ハーケンとロープがあるが、いずれもかなり古いものでロープが括り付けられているハイマツの根っこもぐらついておりとても命を預けられるような代物ではない。補助程度に考えて足場と手掛かりを探しながら慎重にクリアする。

独標に近づいて来ると先行パーティーが稜線直登ルートやトラバースルートに取付いているのが良く見える。

 

独標下〜独標(1100)〜槍のヘサキ直下(1400

独標の取付きにてロープを出して直登しているパーティーもいたが時間が掛かりそうなので迷わずトラバースルートを進む。トラバースルートを暫く進んで途中から独標を目指して稜線に向かうが、上方にロープワークをしているパーティーがおり、そのメンバーからこちらのルートはロープワークが必要で時間が掛かります。トラバースルートに戻った方が早いですよとアドバイスされる。

一旦トラバースルートに戻りもう暫く進むとアドバンスガイドで紹介されていた独標へ向かうルートが見つかったのでこちらを登ってみる。独標は時間があればと言うくらいの感じで思っていたが、稜線へたどり着くと独標を直登していたパーティーが独標方面から降りてきて、独標の位置を尋ねるとすぐそことの事でザックはデポして空身で独標を踏むことにした。独標ピークはドーム岩のツインピークとなっており踏み応えのあるスポットである。

独標を過ぎるとパーティー間の間隔が縮まり、各難所では渋滞が発生する様になってきたが、疲れも溜まってきており丁度良い休憩時間となる。

大小各ピークにはそれぞれ稜線ルートとトラバースルートの両方がある場合が多く、時間的にはややトラバースルートの方が早い感じであるが、大差は無いようである。特に大きなザックを背負っているテント装備のパーティーはザレるトラバースルートよりもむしろ安全面から岩のしっかりした稜線ルートを選択している向きが垣間見える場面も伺えた。

この傾向を利用すると渋滞の際でも動作の鈍い重装備のパーティーをトラバースルートを利用して容易に追い抜くことも可能であると分かった。

北鎌平では2〜3パーティーが休憩していたが、ここから頂上まではまだ標高差200m程度の岩場となりここを一気に登るのは疲れの溜まっている状態では困難と判断し北鎌平はスルーしてヘサキ直下の標高3050m付近で最後の休憩を摂る。

感動のフィナーレ〜頂上(1440

この日はシルバーウィーク前半の朝から雲一つない絶好の好天に恵まれ、北鎌尾根に入山した方は少なくとも5〜60名、もしかすると80名近くいたかもしれない。ヘサキの取付きでは既に7〜8名程度が順番待ち状態となって並んでおり、本来ならここからもルートファインディングで登るところであるが、今日はもう前の人に付いて行くだけ状態、厳しい岩登りは取付きと、中間のチムニー、そして有名な頂上直下のチムニーの3か所、頂上直下のチムニーまで辿り着いた時にはさすがに感動で胸がいっぱいになってきた。

直下のチムニーを登りきり、少し左に巻くといきなり頂上にいる一般登山者の注目を浴びながら祠の裏に飛び出てくる。思わす拳を高らかに挙げて「やった〜、着いた!!!」

槍の穂先がバリエーションの終了点というのは将に感動的である。

 

なお、この日の一般ルートである槍ヶ岳山荘側からは山荘から頂上まで往復3時間待ちとのことでした。

 

アドバンスガイド

山行の前には山と渓谷社のアドバンスガイドを参考にしました。良く出来ており、たいへん参考になりました。

前夜泊の宿泊場所をご提供いただき、登山口までお送り頂きましたMさん

交差縦走にご協力頂きましたIさんパーティー、ありがとうございました。